糖尿病の合併症
横須賀北部共済病院 糖尿病教室 平成15年11月18日(土曜)13:30-14:30

 糖尿病はどうして治療しなければいけないかというと、5年後や10年後の合併症が、生じてからは
引き返せないからです。日本人のうち糖尿病が700万人おり、60歳を過ぎた方の30%が糖尿病かその
疑い(境界型糖尿病)です。

 糖尿病は糖尿病固有の細小血管症が生じる閾値をもとに疫学的に診断基準が決定されています。
食後2時間の血糖が200ng/dlを超えると、細小血管症が増加し、食後200mg/dlに対応する空腹時血糖
として、以前は140mg/dlを採用していたのですが、じつは126mg/dlが境界に相当することが判り、引
き下げられました。この血糖では「糖尿」といっても「尿糖」は検出される事は稀です。ですから、
食前血糖や食後血糖を組み合わせて、他の検査値を参考にして、拾いだす必要があります。尿糖がで
ないので、痛くも痒くもなく、症状がでないまま、ある日突然合併症に遭遇してしまう人が多いので
す。例えば腎障害の指標の蛋白尿を例にあげると、初めて糖尿病と言われた方々の10%がすでに顕性
蛋白尿になっています。網膜症も4%強でみつかります。

 糖尿病がなくても起る合併症の、動脈硬化症(心筋梗塞や脳梗塞)を大血管症と言います。こちら
は空腹時血糖110mg/dlを超えると増加を始めます。糖尿病のない人では1件/1000人・年で発症します
が、糖尿病があると心臓の動脈硬化が 6件/1000人・年、脳梗塞が 5件/1000人・年くらいの頻度でお
こるのです。

 そして、困るのは、もちろん本人でもありますが、周囲の配偶者や子供です。重い介護の負担に苦
しめられるのです。

 例えば、透析には週3回の通院が必要で、カロリーばかりではなくカリウムやナトリウムと言った
塩分の工夫、蛋白の制限など、通常の食事制限を遥かに上回る、厳しい食事制限が必要です。現在は
自己負担はありませんが、糖尿病による透析導入が今のように1万人/年・累積で5万人と増えてくると
何時迄、財政的に支えきれる物か判りません。今、700万円ほど年間に透析の糖尿病患者さんで掛かり
ます。国民健康保険の掛け金ですと100名で1人の患者さんを支えている事になります。自己負担を
1割と言えば70万円、3割なら210万円です。10年後、15年後、痛くも痒くもないと問題の先送りをし
ているあなたが、実際そうなったときの、心理的、社会的、経済的なハンディキャップを想定してみ
て下さい。

 糖尿病の人の130名に1人が透析ですが、糖尿病の無い方の透析の割り合いは1000名に1人に過ぎま
せん。糖尿病にならない工夫、糖尿病になっても合併症を持たない工夫、それは5才だろうが60才だ
ろうが、今日から始めても遅くは無いのです。